第63回宗教法学会シンポジウム 砂川政教分離裁判とその後 :: ARL: 宗教法学会

第63回宗教法学会シンポジウム 砂川政教分離裁判とその後

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 平成23年11月5日に、東京基督教大学において、第63回宗教法学会が開催された。昨年から、秋の宗教法学会は、共通テーマを設定して、シンポジウムを行うことになっている。昨年の「裁判員制度と信教の自由」に続いて、今年度は、「砂川政教分離裁判とその後――国公有地上の宗教施設をどのように取り扱うか――」との共通テーマが設定された。

 周知のように、砂川空知太神社事件最高裁判決(最大判平成22年1月20日)は、宗教施設に対する公有地の無償提供について、違憲の判断を下した。この判決は、一方で、目的効果基準とは異なる判断枠組みを提示したという憲法解釈論上の論点を含み、他方で、いまだ数多くあるといわれている国公有財産上の宗教施設をどのように取り扱うかという実務上の問題を提起している。

 本シンポジウムでは、このような問題意識に基づき、砂川空知太神社事件最高裁判決を様々な観点から多角的に分析することが目指された。

 まず、田近肇会員(岡山大学)の「砂川政教分離訴訟とその影響」では、砂川空知太神社事件が提起した問題が、我が国において普遍的な性質を有すると同時に、地域によって多様な現れ方が見られることが指摘され、その観点から、解釈論上の問題と実務上の問題が整理されるとともに、シンポジウム各報告の位置づけと概観が与えられた。

 次いで、中島宏会員(山形大学)によって「空知太神社事件最高裁判決と目的効果基準」と題する報告が行われた。本報告では、判決の判断枠組みと特徴を、これまでに本件に対してなされた評釈類をも参照しつつ明らかにし、国家と宗教の関わりあいについての類型論を構築する必要性があること、本件の特徴である信教の自由からの調整という側面が一方で評価されるべきものであると同時に、他方で警戒すべき事柄でもあることなどが指摘された。

 第3報告では、大石眞会員(京都大学)によって、「国有境内地処分問題の憲法史的展望」と題する報告が行われた。良く知られているように、本判決の思考枠組みは、これまでの国有境内地処分問題で形成されてきた歴史的な文脈を背景とする。この国有境内地処分問題については、明治憲法制定以前に遡って沿革や背景をも知る必要があるが、本報告では、憲法史的な見地から、国有境内地処分問題の沿革、明治憲法と国有土地森林原野下戻法、行政裁判所と社寺境内地還付問題、第一次境内地処分法の成立前後、日本国憲法と第2次境内地処分法の制定など時系列に沿った整理と検討が行われた。

 午後の第4報告は、矢澤澄道氏(月刊『寺門興隆』編集発行人)から、「空知太神社(砂川)訴訟最高裁判決等にかかわる地方自治体の反応及び対処の現況」が報告された。報告では、本判決以後の各自治体の反応及び対処の現況とこれに対する宗教法人等の対応が紹介されたうえで、今次の東日本大震災被災地における政教分離問題をも含めた、様々な論点の検討が行われた。

 第5報告では、竹内康博会員(愛媛大学)によって、「公有境内地と時効取得」について報告が行われた。本報告では、国有境内地処分問題以後も残る国有地や公有地となった社寺境内地について、時効取得を援用することの可能性が、過去の裁判例を中心に検討された。

 各個別報告に続いて、ディスカッションが開催され、砂川空知太判決をどのように読むのか、国有境内地処分法とその後の行政実務との関係など多くの質問が参加者から寄せられ、熱心な討論が行われた。

 なお、本シンポジウムの詳細は、2012年中に発行予定の宗教法31号に掲載される。

シンポジウムの模様

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