2012年秋季学会 第65回宗教法学会 シンポジウム :: ARL: 宗教法学会

2012年秋季学会 第65回宗教法学会 シンポジウム

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〔概要報告〕

 平成24年11月10日,京都大学において,第65回宗教法学会が開催された。秋の宗教法学会では,一昨年から,共通テーマを設定してシンポジウムが行われている。今回は,平成23年3月11日に発生した東日本大震災の提起した問題点を宗教法の観点から検討するため,「大規模自然災害と宗教法の課題」との共通テーマが設定された。 →趣意書

 午前の第1部「大規模自然災害と宗教法に与えられた課題」では,冒頭,片桐直人会員(近畿大学)から,企画趣旨の説明と問題提起がなされた。同会員は,今回の震災は宗教法の側面からも多くの検討すべき点があると指摘し,議論の視点として,予防・救助・復旧・復興という各局面で必要となる対策や法制度が異なるが,それらの滑らかな連結が必要とされること,登場する主体に多様性・多面性があることなどを示した。
 その後,3名の宗教者からの現状報告や問題提起がなされた。
まず,小野崇之氏(神社本庁総務部長)からは,4585社の神社が被災し,うち309社が本殿等の全壊・半壊を受けるなどの大きな被害を受ける中で,どのように震災発生後の状況に対応し,復旧復興に向けた取り組みを行ってきたかについて報告があった。今後の課題としては,神社の祭礼や伝統行事の継続をいかにして図るかという問題や,非法人の神社への対応ができていないことなどが挙げられた。
 続いて,玄侑宗久氏(臨済宗妙心寺派福聚寺住職)からは,多くの被災地の寺院等が極めて困難な状況にあるとの訴えがなされた。同氏は,東日本大震災復興構想会議のメンバーであった経験を踏まえて,政府による復興予算の執行に疑問を投げかけつつ,地域コミュニティー施設,あるいは「心のケア」のための施設として,宗教施設の再建にも復興基金からの支援をする必要があると主張した。また,権利者の多くが被災した墓地では,移転が困難な状況が生じており,法的な手当てがなされる必要があるのではないかとの問題提起もなされた。
 そして,川上直哉氏(日本基督教団仙台市民教会主任担当教師)からは,宮城県宗教法人連絡協議会を通じた諸宗教間のネットワークや,同協議会を後援団体とする「心の相談室」において行われた被災者支援や東北大学実践宗教学寄付講座についての報告があった。震災直後の犠牲者の葬送の場面で,宗教者と行政当局がどのように対処したのか,被災者の心のケアにおいて宗教者がどのような役割を果たしているのかといった,宗教法の観点からも多くの示唆に富む報告であった。

 午後の第2部「大規模自然災害と宗教法の対応」では,4名の法律家・実務家による報告がなされた。
 まず,百地章会員(日本大学)の報告は,犠牲者の葬送・追悼・慰霊,被災者の心のケアと政教分離の関係について,憲法論の観点から検討を加えたものである。同会員は,政教分離は「国家(ステイト)と宗教団体の分離」であって,「共同体としての国家(ネイション)」との分離を意味しないとする立場から,自治体が遺族らの希望を尊重して宗教儀式を行うことを受け入れたり,自治体が自ら宗教的慰霊・追悼行事を行ったりすることに憲法上の問題はないとの見解を提示した。
 次に,津久井進氏(弁護士)から,阪神淡路大震災以降の実例を踏まえて,政教分離原則と整合性を保ちつつ,被災した宗教的施設の再建支援を行う方途を実務的観点から考察する報告があった。そこでは,中越・中越沖地震の際,「地域コミュニティー施設等再建支援事業」として,復興基金制度を活用し,宗教施設の復旧費用の補助がなされた例などが紹介され,災害復興の目的で,地域コミュニティー施設に該当する宗教施設の再建支援を行うことは,政教分離原則に関する判例理論に照らしても肯定できるという見解が示された。また,東日本大震災の「取り崩し型復興基金」の下での宗教施設の再建支援についての課題についても検討が加えられた。
 そして,熊本達哉氏(文化庁主任文化財調査官)からは,今回の震災による文化財の被災状況が報告されるとともに,文化庁が行っている文化財レスキュー事業,文化財ドクター派遣事業の紹介があった。同氏の報告では,建設後50年を経過した宗教施設について登録有形文化財として登録を受けていたことから復旧費用の一部の支援を受けた例が紹介され,また,文化財建造物に占める宗教建築の割合は,重要文化財では60%であるのに対し,登録文化財では13%に留まっているとの指摘があった。今後は,防災・減災の見地から,登録文化財制度を有効に活用することが期待される。
 最後に,長谷川正浩会員(弁護士)により,休眠宗教法人(不活動宗教法人)の問題について検討が加えられた。宗教法人法81条1項は,1年以上にわたって目的のための行為をしない場合(2号後段),礼拝施設が滅失し,やむを得ない事由がないのに2年以上再建されない場合(3号),1年以上にわたって代表役員・代務者を欠いている場合(4号)を解散事由としている。同会員は,被災した宗教法人が上記事由に該当することのないよう対策を講ずる必要があることを指摘するとともに,再建に関する「やむを得ない事由」については,弾力的な解釈運用がなされるべきであると提言した。
 

 以上の個別報告に続き,第3部としてパネル・ディスカッションが行われた。参加者からも多くの質問が寄せられ,支援をするにあたって宗教団体・宗教施設の選別が生じる問題,犠牲者の葬送に宗教者が関与することを自治体が受け容れることと,自治体自らが宗教的慰霊行事を行うこととを同列には論じられないとの指摘,災害救助法が「埋葬」の救助を認めていること(23条1項9号)と遺族の宗教的感情の関係などについて熱心な討論が行われ,報告で提起された問題点がさらに深められた。
 本シンポジウムでの多角的な検討を通じて,現時点における問題点は,相当程度明らかになったように思われる。
 なお,本シンポジウムの詳細は,2013年中に発行予定の宗教法32号に掲載される。

(嘉多山宗・記)

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